『カブトムシと進化論 -博物学の復権』  新思索社 ¥2500+税 


河野和男(かわの かずお) 著

 2004年11月30日発刊。最近購入し、電車の帰り道、駅を乗り過ごすほどに読みいってしまいました。著者は、アジア各国の作物育種を手がけられ現地への貢献もめざましい育種学の専門家でもあるが、かなりの昆虫愛好家でもあり、本書は、この両輪によってここちよいバランス感覚の内容となっています。肩書きもある方ですが、このような本を書かれることは勇気も要ったのではないかと推察します。

 「主体性の進化論:今西錦司」「分子進化の中立説:木村資生」という両人の是非を論じる章は、とても公平な視点のように感じました。

 虫が好きでダーウィン論に反発した人といえば、ファーブルを思い出しますが、やはり昆虫の多様な世界を愛する人は、自然選択一元論に対しては理不尽な感情が起るのではないかと思います。熱帯と温帯のカブトムシの標本を並べてみて、「カブトムシは根本的に熱帯の虫のようである」とか、「熱帯は一般に温度が高いので生物活性が高く進化速度も速い(素朴な理解)」などと書いているところは、たとえ今立証できないことであっても、虫を眺めていると「本当のこと」としかいいようがない気がします。私もかつては昆虫少年であり、今でも採集こそはしませんが、何故か毎年2-3匹、コクワガタのメスが自宅へ訪問?するのでそれを飼っているのですが、ヨチヨチ手のひらを歩く可愛い姿を見ていると、「突然変異の積み重ね」が今手のひらを歩いているという思想に対して憤りを感じることがあります。

 推薦しておきながら、実はまだ読み途中ですが、不肖この『今西錦司の世界』を少しは参考になるなぁと思っていただける人であれば、本書『カブトムシと進化論』はとても面白く読めると思います。
 あとがきには、「自分もこんな本を書いてみたかったのだ」と思ってもらえる本を書きたかった、とあるが、著者のねらいどおり、そう思ってしまいました。

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