虹とカマキリ
 

 おや、雨あがってたね。ああ、虹が出てるじゃないか。
 虹はね、太陽と僕の視点を結んだ先向こうに中心が来るんだって。向こうの水の粒が太陽の光を反射して決まった角度でできるんだ。

 ふ〜ん、じゃ、わたしとあなたと違う虹を見てるのかしら。




 きっと、そうだよ。
 みて、こっち。雨があがってとびだした虫をカマキリがねらっているよ。
 

 あら、カマキリ、こっちを見てるわ。エサより私のほうが好きなのかしら。




 違うよ、僕のほうを見てるよ。

 へんね、どっちを見てるのがほんとなのかしら。
 

 あはは、カマキリの瞳みたいのは自分がいるほうに向いているわけで
こっちを見ているわけじゃないんだけどね。
 

 じゃあ、やっぱりわたしが見ているのと、あなたのほうから
見ているカマキリは違う像をむすんでるってことね。
 私たちが見ているもので本当に共通なものってあるのかしら。
 

 時間だってそうだよね。僕が感じる一時間や一生の長さは、
君と感じる長さと比べることはできないからね。
 

 あら、一日は24時間よ。
 

 そう、だから地球の自転速度を私たち人間の共通のものと決めて、
目盛りを刻んだのが時計だよね。だけどエンデの「モモ」みたいに
この時間は影の時間かも知れないよね。
 こうした決め事がなかったら科学は成り立たなかったのだけど。

 
 虹やカマキリの瞳も客観として誰にとっても同様にあるものと
おもってたけど、見る人が参加していたのね。
 

 その中でものを変化させる力をもつ共通のものさしを
とりだしたのが科学であって、君が見る虹は君にしかほんとは
見えないんだ。

 
 それでも一人の世界じゃないってわかるよ。

 
 愛があるからね。
 (おしまい)